「慣用表現」の適切な使い分け

言葉は、人と人とのコミュニケーションのための重要な手段です。

しかし、間違った言葉の使い方や表現は、製品やサービス、あるいは個人の能力の過小評価に繋がってしまったり、お客様やお世話になっている人に不信感を与えてしまったりする可能性があります。

それに対して、適切な言葉を用いることで、人に好印象を与え、信頼を得られることもあるでしょう。

しかしながら、間違った言葉の使い方や表現を見つけることは容易なことではありません。

それには時間と集中力が必要であり、また知らないことをチェックすることはできません。さらに、言葉は生き物のようなもので、常に変化していることにも注意しなければなりません。


当社は、2016年から自然言語処理を用いた社会課題の解決に取り組んでいます。

特に、日本語への自然言語処理AIの活用を推進するべく、「日本語の校正」をAIにより行なう「IWI日本語校正ツール」を開発し、2023年11月にサービスを開始しました。

本記事では、「IWI日本語校正ツール」によりチェックできる日本語表現について紹介します。

このツールの活用で、言葉によるコミュニケーションの質を高められるようにし、少しでも皆様のお役に立てればと思います。

目次

慣用表現とは

慣用表現とは、ことわざや慣用句など、習慣的に使用されてきた日本語表現のことをいいます。慣用句は、二つ以上の単語が結びついて一つの意味を持つ表現で、例としては、「あごで使う」、「油を売る」、「口を割る」などがあります。

しかし、「足もとをすくわれる」のように、本来の言い方とは異なるものが一般的になっている例もあり、文章を書くうえで判断が難しいと感じる場合があります。

ここでは、「IWI日本語校正ツール」がチェックできる慣用表現をいくつかピックアップし、またそれぞれに想定される適切な言い換えも紹介したいと思います。


慣用表現と言い換えの例

愛想を振りまく

想定される言い換え:愛嬌を振りまく

考察:「愛想」は振りまけるものではないため、「愛嬌を振りまく」が本来の言い方とされています。ただし、辞書によっては「どちらも使われていたため誤りではない」という記述や、用例として「愛想を振りまく」の記載があります。また文化庁の「国語に関する世論調査」(平成27年度)では、「愛嬌を振りまく」を使う人が49.1%、「愛想を振りまく」を使う人が42.7%となっており、どちらも同じくらいの割合となっています。「愛想を振りまく」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。

足もとをすくわれる

想定される言い換え:足をすくわれる

考察:その言葉の成り立ちから、「足をすくわれる」が本来の言い方とされています。ただし、「足もと」に「足の下部」という意味が古くからあるなど、「足もとをすくわれる」も一概に誤用とは言い切れないようです。また文化庁の「国語に関する世論調査」(平成28年度)では、「足をすくわれる」を使う人が26.3%、「足もとをすくわれる」※を使う人が64.4%となっており、本来の言い方ではない表現が多く使われています。「足もとをすくわれる」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。
※文化庁の資料では「足下」と表記

明るみになる

想定される言い換え:明るみに出る

考察:「明るみに出る」が本来の言い方とされています。「明るみになる」は「明らかになる」との混同から来ていると考えられており、辞書によっては誤用とみなしています。ただし、「明るみになる」の用例を載せたうえで、「明るみに出る/なる」の両方の言い方があるとしている辞書もあります。「明るみになる」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。

嫌気がする

想定される言い換え:嫌気が差す

考察:「嫌気が差す」が本来の言い方とされています。「嫌気がする」は、辞書によっては誤用とみなしています。使用は避けた方がよいでしょう。

上には上がいる

想定される言い換え:上には上がある

考察:人について表現するときに「いる」を使ってしまいがちですが、「上には上がある」が本来の言い方とされています。「上には上がいる」は、辞書によっては誤用とみなしています。使用は避けた方がよいでしょう。

汚名挽回

想定される言い換え:汚名返上、名誉挽回

考察:「汚名返上」が本来の言い方とされています。ただし、「汚名挽回」を誤用とするかしないかについては、辞書によっては「両説ある」とされています。誤用とする説では、「挽回」は取り戻すことであるため、「汚名挽回」は「汚名」を取り戻す意味になってしまうという指摘があります。「汚名挽回」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。

雪辱を晴らす

想定される言い換え:雪辱を果たす

考察:「雪辱を果たす」が本来の言い方とされています。「雪辱を晴らす」は、辞書によっては誤用とみなしています。「雪辱」は辱めを雪(そそ)ぐ(=すすぐ)ことであり、それをやり遂げる(=果たす)ことを「雪辱を果たす」と言います。また「晴らす」は、不快なものを取り除くことを意味するため、「雪辱を晴らす」では意味が通らなくなってしまいます。使用は避けた方がよいでしょう。

念頭に入れる

想定される言い換え:念頭に置く

考察:「念頭に置く」が本来の言い方とされています。「念頭に入れる」は、辞書によっては誤用とみなしています。ただし、「念頭に入れる」の用例を載せたうえで、「念頭に置く/入れる」の両方の言い方があるとしている辞書もあります。「念頭に入れる」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。

物議を呼ぶ

想定される言い換え:物議を醸す、論議を呼ぶ

考察:「物議を醸す」が本来の言い方とされています。「物議を呼ぶ」は、辞書によっては誤用とみなしています。使用は避けた方がよいでしょう。

的を得る

想定される言い換え:的を射る

考察:「的を射る」が本来の言い方とされています。「的を得る」は、「当を得る」や「要領を得る」の混同から来ていると考えられており、辞書によっては誤用とみなしています。ただし、「的を得る」の用例を載せたうえで「的を射る/得る」の両方の言い方があるとしている辞書もあります。「的を得る」の使用は避けるとして、誤用とまでは判断しない方がよいでしょう。


ツールで賢くチェック

こうした日本語のチェックには多大な時間と集中力を必要としますが、自動でチェックするツールを使えば、作業効率は大きく上がると思います。

ツールを賢く活用して、適切な日本語の使用を心掛けたいものです。

 

主な参考文献

「微妙におかしな日本語: ことばの結びつきの正解・不正解」神永曉(草思社)

「勘違いことばの辞典」西谷裕子 編(東京堂出版)

「明鏡国語辞典 第三版」北原保雄 編(大修館書店)

「三省堂国語辞典 第八版」見坊豪紀、市川孝、飛田良文、山崎誠、飯間浩明、塩田雄大 編(三省堂)